はじめに
我が国の社会保障、福祉サービスは現物または現金で給付されます。
現物給付、現金給付はそれぞれ特徴があります。果たしてどちらがいいのでしょうか?
「現代社会と福祉」の過去問題を取り上げ、バウチャー制度を含め、メリット・デメリットを解説していきます。
この記事を読めば、これが分かる!!
- 現物給付と現金給付の違いを知りたい
- 現物給付と現金給付のメリット・デメリットを知りたい
- バウチャー制のメリットを知りたい
参照した文献はこちら
第33回 問題026(社会福祉士国家試験 過去問題)
福祉政策における資源供給の在り方に関する次の記述のうち,最も適切なものを 1 つ選びなさい。
1 現金よりも現物で給付を行う方が,利用者の選択の自由を保障できる。
2 バウチャーよりも現金で給付を行う方が,利用者が本来の目的以外に使うことが生じにくい。
3 日本の介護保険法における保険給付では,家族介護者に対して現金給付が行われることはない。
4 負の所得税は,低所得者向けの現金給付を現物給付に置き換える構想である。
5 普遍主義的な資源の供給においては,資力調査に基づいて福祉サービスの対象者を規定する。
解説
正答:3
選択肢1:誤り
1 誤り。現物給付と現金給付では、現金給付の方が利用者が自由に使い道を決められるため、自由度が高いです。
現物給付の主な例
- 医療保険における療養の給付
- 介護保険の各種サービス
- 保育所への入園 ほか
現物給付は物・サービスそのものが支給されるため、本来の目的以外のことに使えません。つまり、利用者の自由度は低いといえます。
現金給付の主な例
- 年金保険の給付(月々の年金が現金で給付される)
- 生活保護の生活扶助
- 児童手当、児童扶養手当など
現金給付はお金が支給されるため、本来の目的以外のことに使えます。子育てを応援する目的で各世帯に支給される児童手当(現金)を、自分や親の医療費に使うことは事実上可能です。
つまり、現金給付の方が利用者の自由度は高いといえます。
選択肢2:誤り
2 誤り。バウチャーは現金ではなく、目的を限定した利用券・割引券等を配布することです。この方法では、利用者は本来の目的以外に使用することは困難であるため、自由度は低いといえます。
利用者の自由度が高いのは現金給付です。「○○の目的で使用してほしい」として現金を給付したとしても、実際に使う者のモラルに委ねられるため、本来の目的以外で使用する可能性があります。
つまり、現金よりもバウチャーの方が、本来の目的以外に使うことが生じにくいです。
選択肢3:正しい
3 正しい。我が国の介護保険制度における給付は、現物給付しかありません。選択肢にある「家族介護者に対する現金給付」は存在しませんし、また、利用者本人に対する現金給付もありません。
ドイツの介護保険制度(日本は介護保険制度の創設にあたり、この国の制度をベンチマークした)、フランスの介護制度では、家族介護者に対して現金を支給する仕組みがあります。
選択肢4:誤り
4 誤り。負の所得税とは、個人の所得の少なさに応じて税金をもらえる仕組みです。逆所得税とも言われます。所得格差を是正する措置のひとつと考えられています。
本来の所得税は、個人の所得に対してかかる税金のことを指します。所得が多くなるほど、税率が高くなるという仕組みです。
負の所得税はこの逆です。個人の所得が低ければ税金が多く貰えるというものです。
選択肢にある「低所得者への現金給付を現物給付に置き換える」ものではありません。
選択肢5:誤り
5 誤り。以下、普遍主義と選別主義の違いを記します。
普遍主義とは
選択肢にある「普遍主義」とは、貧富にかかわらず遍(あまね)く多くの人に利用してもらうようにすることです。
現在の医療保険制度がこれに当てはまります。利用者の貧富は置いておき、保険料を払ってさえいれば誰もが被保険者・被扶養者となり、医療サービスを受給することができます。
選別主義とは
一方で「選別主義」とは、受給する・できる人を極力限定する考え方です。受給の条件に、資力調査や所得制限が設けられているため、限られた人しか利用することができません。
例えば、生活保護は、だれでも給付を受けられるわけではなく、貧困が原因で最低限度の生活を送ることができない人が対象となります。
受給には、資力調査(資産の有無等を調べられる)が条件であり、一定の規準以下の人に対してのみ給付がなされます。
つまり、資力調査においてサービス受給者を限定・規定するのは「選別主義」の考え方です。
出典・引用
第33回 社会福祉士国家試験(公益財団法人 社会福祉振興・試験センター)
参考文献
きちんと整理されているのでとても分かりやすく、効率よく覚えることができます!